第46回例会では「DX動向とデジタル人材像」をテーマに、日本企業のDXの現在地と中小企業診断士の役割を議論しました

皆さま、こんにちは。今回レポートを担当する坂下です。

8月25日の研究会では、「公的レポート調査研究分科会」から、黒中さんと西川さんに「DX動向とデジタル人材像について」をテーマに発表いただきました。IPAの「DX動向」と「デジタルスキル標準」を手がかりに、日本企業がDXで成果を出し切れていない理由、生成AI時代に求められる人材、そして中小企業診断士が担うべき役割について、活発な意見交換を行いました。

1.今回の個人的な感想

今回印象に残ったのは、DXの成否を分けるのは技術の新しさではなく、経営者が目的を示し、成果指標を定め、現場とともに変革を進められるかどうかという点です。特に私は、「全体最適を目指すこと」と「スモールスタートで始めること」はどう両立するのかを質問しました。議論を通じ、全社の方向性を見失わず、効果が見えやすい業務から着手し、成功体験を横展開していくことが現実的だと整理できました。また、人材像をそのまま当てはめるのではなく、自社に必要な役割を見極め、育成・採用・外部連携を組み合わせる視点も重要です。中小企業支援では、難しい用語や大企業の事例を伝えるだけでなく、経営者が自社の利益や成長とのつながりを具体的に描けるよう支援する必要があると改めて感じました。

2.今回の内容について

それでは今回の内容は以下のとおりです。

(1)教えてもらったこと

  • 日本企業のDXは「内向き・部分最適」に偏りやすい
    DXに取り組む企業は増えている一方、業務効率化やコスト削減にとどまり、売上向上や新たな価値創出といった「外向き」の成果につながりにくいことが、日本と欧米との差として紹介されました。
  • 成果を測るKPIがなければ、ツール導入が目的化する
    発表では、IPA「DX動向2025」の2024年度調査(2025年2~3月実施)において、日本企業の5%がDXのKPIを未設定とされていることが示されました。何をもって成功とするかが曖昧なままでは、評価も改善もできず、導入そのものがゴールになってしまいます。
  • 生成AIは個人利用から業務プロセスへの組み込みへ
    日本では生成AIの個人利用が進む一方、部署の一連の業務に組み込む活用は遅れています。AIの普及に対し、データ基盤や効果測定の仕組みが追いついていないことも課題です。
  • デジタルスキル標準は「全社員」と「専門人材」の二段構え
    全社員向けの「DXリテラシー標準」と、専門人材向けの「DX推進スキル標準」で構成されます。2026年4月の改訂では、AI活用の土台となるデータを整備・管理する「データマネジメント」が新たな人材類型として加わりました。

(2)公的資料から読み解くDX人材育成のポイント

  • DX推進に必要な共通理解を社内に広げる
    デジタルスキル標準では、DXの背景、データ・デジタル技術の活用方法、求められるマインドや姿勢など、全社員に必要な基礎的なリテラシーが整理されています。
  • 自社に必要な役割とスキルを明確にする
    デジタルスキル標準に示された人材類型をすべてそろえるのではなく、自社の課題に応じて必要な役割を選び、育成すべき人材やスキルを整理することが重要です。
  • 育成・採用・外部連携を組み合わせる
    必要な人材をすべて社内で確保することが難しい中小企業では、既存社員の育成、外部人材の採用、専門家との連携を組み合わせることが現実的です。
  • 利用可能な学習機会を人材育成に生かす
    「マナビDX」などの学習基盤には、DXリテラシーを学べる講座が用意されています。自社の人材育成方針に合わせて、こうした学習機会を取り入れることも考えられます。

(3)中小企業におけるDX推進上の課題

  • 経営者が目的と成果指標を示せていない
    現場任せの改善を積み重ねるだけでは、身近な業務の部分最適に陥りがちです。経営者が何のためにDXを行うのかを自ら語り、売上、リードタイム、顧客満足度などの指標を設定する必要があります。
  • AI活用の前提となるデータ化が不十分
    紙や属人的な情報のままでは、生成AIを業務に組み込めません。まずはアナログ情報のデジタル化、次に業務プロセスの見直しを進めるなど、自社の成熟度に応じた段階的な取り組みが必要です。
  • 推進担当者に負担が集中しやすい
    意欲のある担当者が取り組みを提案しても、その人がメンテナンスや保守を担うことになり、かえって仕事が増えるという意見がありました。「言い出しっぺがやる」状態を避けるため、経営者が各人の役割を明確にし、組織として取り組む必要があります。
  • 抽象論や専門用語だけでは経営者・現場に伝わらない
    DXに関する公的資料は情報量が多く、紹介されている事例も大企業が中心であるため、そのままでは中小企業に伝えにくいという意見がありました。中小企業の経営者に理解してもらうには、具体的な事例を示し、専門用語を使わずにかみ砕いて説明することが求められます。

(4)中小企業診断士が支援できること

  • DXを経営課題として設計する
    経営ビジョンと現場課題をつなぎ、目指す成果、対象業務、KPIを整理します。特定のツール販売を目的としない中立的な立場で、手段の目的化を防ぐことができます。
  • スモールスタートを全体最適へつなぐ道筋を描く
    効果が出やすい業務から始めつつ、成功体験を他部門へ展開するロードマップを作成します。小さく始めても部分最適で終わらせず、段階的に全社の変革へ広げる伴走が可能です。
  • 自社に合った人材戦略へ落とし込む
    デジタルスキル標準をそのまま当てはめるのではなく、必要な役割を選定し、スキルマップ、育成計画、採用、外部連携を組み合わせて実行可能な体制を設計します。
  • データ整備、定着化、効果測定まで伴走する
    現状のデータや業務プロセスを確認し、無理のないデジタル化から着手します。導入後も現場の負担や利用状況を確認し、得られた時間や人員を顧客価値・売上向上へ再投資できるよう改善を支援します。

3.まとめ

DXの出発点はツール導入ではなく、経営の目的と人材の役割を明確にすることです。全体最適の方向を共有しながら、小さな実践を成果につなげ、段階的に広げていく。その過程を支える「経営変革の伴走者」として、中小企業診断士の役割はますます大きくなると感じました。

次回は「BtoBにおける受注処理の効率化」をテーマに、注文方法が多様な受注企業の具体的な課題と解決策を検討する予定です。